元獣医師の子育て記録

都内で猫2匹、多数のげっ歯類、ヒトの女の子1人を育てています。

完ベビーフード育児

現在、私はほとんど離乳食を手作りしていません。

料理はわりと好きな方なので最初は頑張っていましたが、何が悪いのか手作りだと全然食べず、ベビーフードだと完食するということが続いて心が折れたので手作りをやめました。

今手作りしてるのはしらすご飯とおやきくらいですかね。しかもおやきの素を使ったやつ。あとはベビーフードにトッピングくらいはします。

 

ビーフードは製造過程で栄養がうんぬんみたいな話も聞きますが、企業が叡智を結集させて作ったベビーフードの栄養が偏ってるわけなくないですか?どう考えても素人が作った離乳食の方が栄養偏ってる気がするんですが

犬猫だと当然手作りよりドッグフード・キャットフードが推奨されるのに、ヒトだと手作りが推奨されるのはよくわからないですね。犬猫に手作りを推奨しない理由については獣医師として語りたいところもあるので、この記事の下の方に書くことにします。

あと、いくら手作りの方が栄養があったところで食べなければ何一つ意味はないので。と思って完ミならぬ完ベビーフードでやってます。今の所元気で何も問題ありません。

 

日本人って食に対するこだわりが強い民族だとよく言われてますが、そのへんが離乳食の手作り信仰にもつながってるのかなと思います。

ちなみに、厚労省が公開している「授乳と離乳の支援ガイド*1」にはベビーフードについて以下のように書かれています(一部抜粋しています)。

離乳食は、手作りが好ましいが、ベビーフード等の加工食品を上手に使用することにより、離乳食を作ることに対する保護者の負担が少しでも軽減するのであれば、それも一つの方法である。 ベビーフードは、各月齢の子どもに適する多様な製品が市販されている。手軽に使用ができる反面、そればかりに頼ることの課題も指摘されていることから、ベビーフードを利用する際の留意点を踏まえ、適切な活用方法を周知することが重要である。

「手作りが好ましい」と書かれてはいますが、なぜ好ましいのかという理由は書いてないんですよね。

ちなみにベビーフードの課題については以下のように書かれています。

1. 多種類の食材を使用した製品は、それぞれの味や固さが体験しにくい。

2.ベビーフードだけで1食を揃えた場合、栄養素などのバランスが取りにくい場合がある。

3. 製品によっては子どもの咀しゃく機能に対して固すぎたり、軟らかすぎることがある。

1と2については、「ベビーフードにトッピング」で解決できます。

離乳食はほとんど手作りしていないと書きましたが、一部手作り(?)して冷凍でストックしているものがあります。それが5倍がゆと野菜(にんじん、小松菜/ほうれん草、かぼちゃ、さつまいも)と魚(たら/かれい、しらす)です。

「このベビーフードはなんとなく野菜が少ないな」「タンパク質が少ないな」「炭水化物入ってないな」という時に、ビーフードにプラスすることで栄養バランスを補ってるかんじです。ついでに、素材そのもの味わってもらえるって算段です。

娘は肉より魚が好きなので魚をストックしていますが、お肉でも別にいいと思います。

 

3については、確かに思うところがあります。

前回紹介した味千汐路↓なんかは、対象月齢の割に軟らかいな〜と思って与えていました。

でも大手のキューピーや和光堂のベビーフードではあまりそう感じないので、別に過剰に気にする必要はないと思います。

 

また、ベビーフードを使用する際の留意点については以下のとおり書かれています(一部抜粋)。

◆子どもの月齢や固さのあったものを選び、与える前には一口食べて確認を。

◆離乳食を手づくりする際の参考に。

◆用途にあわせて上手に選択を。

◆料理や原材料が偏らないように。

開封後の保存には注意して。食べ残しや作りおきは与えない。

どれも正直手作り食での注意点と変わらないですよね。なので私はこれからもベビーフードを使いまくっていこうと思います。

いつかは一緒の食事をできるようになると信じて…。

 

 

【おまけ】犬猫に手作り食を推奨しない理由

獣医師として犬猫に手作り食を推奨しない理由は簡単です。必要な栄養素が全然足りないからです。

市販されている犬のレシピ本及び飼い主のオリジナルレシピを対象として、栄養素の充足度について調査した報告があります*2。この報告によると、調査対象レシピの中ですべての栄養素が充足していたレシピは存在しておらず、必要な栄養の半分しか摂れないようなレシピもあったそうです。

もしかしたら「手作りの方が健康に良い」と思って作っているのかもしれませんが、これでは本末転倒ですね。

また、これは診療をしていたときの感覚ですが、手作りしか食べさせていない犬は基本的に甘やかされていることが多く、病気になったときに食べるものが無くて困ります。

ドッグフードしか食べていない犬は病気になり、調子が悪くなっても「ささみなら食べるかも?」「この缶詰はどうかな?」「療法食に切り替えてみる?」など、”自分で食べる”選択肢がありますが、手作り食しか食べていない犬はそもそも他のごはんを何も食べず、強制給餌で栄養をぶちこむしかない…ということが多くありました。

このように栄養面でも生活面でも何一つメリットはないため、手作り食はまったくおすすめしません。

一方で、「手作りのものを食べさせたい」という飼い主さんの気持ちもわかります。なので、せめてドッグフードにトッピング…という形で手作りしてあげてほしいのです。

ゆでささみを乗せてあげたり、ちょっとお魚を足してあげたり、そんなことでも十分に愛情は伝えられると思うんです。ただしあげすぎて太らせるのは病気のリスクになるのでやめてほしいですが…。

昔、消化器の先生の講義で「週に1食でもドッグフード(総合栄養食)を与えていれば、大きな問題は起きにくい」といっていました。これはその先生の所感でありエビデンスレベルはとても低いのですが…それくらいドッグフードは偉大なんです。キャットフードも同じです。

インターネットにはペットのための手作りレシピなるものが溢れていますが、お願いだからおとなしくドッグフード・キャットフードを与えてください。それが健康への一番の近道です。

*1:https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf

*2:清水いと世 ほか:ペット栄養学会誌, 20, 2, 2017